札幌本部 2022.12.26 農民オケの牧野さんらが旧高倉邸でクリスマスコンサート 北大名誉教授の故高倉新一郎(たかくら・しんいちろう)先生=1902~1990年。1926年北海道帝国大学農学部農業経済学科卒業=の自宅だった札幌市中央区北6条西12丁目の旧高倉邸で12月25日、クリスマスコンサートが開催され、北海道農民管弦楽団(通称・農民オケ)の主宰者・指揮者である牧野時夫(まきの・ときお)さん=1984年北大農学部農学科卒業=らが演奏、満員の聴衆がクリスマスソングなどを楽しみました。 【夕暮れ近くに明かりが灯った旧高倉邸(現在の『café BEAN's』)】 旧高倉邸は1921(大正10)年築の木造2階建て洋館で、高倉先生が自宅として居住し、書庫と研究活動の拠点にもなっていました。近くには星野勇三先生の旧住宅「星野邸」=札幌景観資産第12号=や宮部金吾先生の住宅跡地を整備した「宮部記念緑地」があります。JR桑園駅と北大農学部からほど近いこの界隈は、大正から昭和の時代を中心に、多くの教員など関係者が住んでいました。そのため「桑園の大学村」や「桑園博士町」と呼ばれ、市民に親しまれ、札幌市の「さっぽろ・ふるさと文化百選」の一つに選定されています。 【高倉邸の位置は斜線の「ふきのとう子ども図書館現在地」の北側の白地部分=高倉嗣昌さん作成。『ふきのとう文庫だよりNo.128』より転載】 この洋館は高倉先生のご子息・高倉嗣昌(つぐまさ)さん=北海学園大学名誉教授=が代表理事を務める「ふきのとう文庫」が管理をしていますが、同じ桑園地区で営業していた喫茶店「café BEAN’s(カフェ・ビーンズ)」の代表、福井美都子(ふくい・みつこ)さんが今春借り受けて移転、同名の喫茶店として活用しています。福井さんは音楽家として歌などの活動を展開しながら、店内でさまざまなジャンルの音楽のライブコンサートを開いています。 【天井やシャンデリアにも独特のデザインが残る旧高倉邸】 この日のコンサートで演奏したのは、後志管内余市町在住の瀧谷(たきや)まゆみさん=フルート・ソプラノ歌唱=、同赤井川村在住の安河内(やすこうち)真樹さん=ピアノ=、余市在住の牧野さん=バイオリン=の3人で構成する「Trio M'amore(トリオ・マモーレ)」。結成14年目で、「M」はMakino、Mayumi、MakiのM。「amore」はイタリア語の「愛」。「マモーレ」の音には、自然や命、平和という大切なものを「守れ」の意味を込めているといいます。 このうち牧野さんは農学科を卒業した後、1986年に修士修了。余市で有機農園「えこふぁーむ」を営み、無農薬でブドウ、リンゴ、サクランボなど果樹や野菜を栽培する傍ら、北海道農民管弦楽団の代表を務めるなど、音楽活動を展開しています。同楽団は、宮沢賢治の理想に基づき、彼の果たし得なかった「農民オーケストラ」を現代に実現したもの。1994年に設立し、毎年道内各地で定期演奏会を開催、賢治没後80年記念の岩手県花巻市での公演(2013年)などを成功させました。2000年度ホクレン夢大賞、2007年度北海道地域文化奨励特別賞、2018年イーハトーブ賞などを受賞しています。 この日の演目は、「赤鼻のトナカイ」、「アメイジング・グレイス」、カッチーニの「アヴェ・マリア」、チャイコフスキーの「花のワルツ」などのクリスマス関連10曲。アンコールには「主の祈り」が演奏されました。美しい音色とハーモニー、のびやかな歌声が響き、席を埋めた20人の聴衆から一曲ごとに大きな拍手が贈られました。 店内のホールは、高い天井からシャンデリアが下がるミニコンサートホールの様相で、コーナーには高倉先生が愛用した机や書棚など調度品が大切に保存展示されています。築101年、大正・昭和時代の装飾や雰囲気が残るホールでの演奏は、午後4時半に開宴し、飲み物を飲みながらのゆったりした時間が流れるうちに、外はすっかり暗くなり、ホール内に飾られたクリスマスツリーの明かりが点滅していました。 【店内の1コーナーに保存展示されている高倉新一郎先生愛用の机と書棚】 聴衆の一人、札幌市内の女性は「初めてこの店に来ました。昔の雰囲気と造りが素敵ですね。クリスマスらしい曲を、生演奏で近い距離で聴けて、楽しい時間でした」と笑顔で話していました。 牧野さんにとって旧高倉邸で演奏したのは初めて。演奏後、「この場所を雑誌で知りました。ピアノがあり、室内の雰囲気がクラシックに合うので、また、私も農学部出身なので、ここで演奏できたらいいなと思いました。実際に演奏したらとても音の響きが良く、気持ちよくできました」と話していました。 (事務局)