関西支部 2025.02.11 北大関西同窓会3月「三金会」 開催のお知らせ 〇日時 2025年3月21日(金) 18:30~21:00 〇開催場所 大阪駅前第2ビル2F 北大会館 会議室〇参加費 ¥2,000 (講演終了後、約1時間の懇親会を実施します。zoomでもご参加いただけます。zoom URLはお申込みいただいた後に連絡いたします。zoom参加は無料です。)〇申込方法 申込は下記のURLにアクセスしてお申し込みください。https://docs.google.com/forms/d/e/1FAIpQLSfk-HDgDxgLYYgZfPr87obHCNL64PCJB1DKg2zpf0bIcg8tPw/viewform?usp=header 〇テーマ: CRISPRの発見、機能解明、そしてゲノム編集技術へ〇講師: 石野良純 氏(S61D 薬学部)九州大学名誉教授 〇講演要旨 CRISPR-Cas9はバクテリアやアーキアが、ウイルス(ファージ)やプラスミドのような細胞外から侵入してくる遺伝物質(核酸)から自分の身を護るための生体防御システムであり、原核生物の獲得免疫系といわれる。この作用機構を利用して、ゲノム上の特定部位を狙って人工的に二本鎖切断を起こすことによるゲノム編集技術が開発された。この方法はそれまでの技術に比べて、画期的に簡便で高効率であったことにより、CRISPRを利用した実用的なゲノム編集技術として急速に普及している。演者は、1980年代に遺伝子組換え技術を利用しながら、大腸菌のリン酸代謝酵素の研究を行っていた中で、29塩基を一単位とする保存された配列が等間隔をおいて何度も繰り返す奇妙なDNA塩基配列を発見した。この繰り返し単位の中には当時のDNA配列解析技術では正確に解読するのが困難なパリンドローム構造を取りうる二回対称配列が含まれていた。1980年代にはこのような特徴を持つ塩基配列は前例も無く、生物学的意味がまったく予想もできなかった。1990年代半ばからゲノム解析時代に入り、次々に生物のゲノム配列情報が解読されるようになると、同じような特徴を持つ繰り返し配列が他のバクテリアやアーキアからも見つかり、この配列は2002年にクリスパー(CRISPR; Clustered Regularly Interspaced Short Palindromic Repeat)と名付けられた(2)。また、CRISPRの近傍には保存された遺伝子群があることが指摘され、cas (CRISPR-associated) 遺伝子と名付けられた(2)。 CRISPR領域の配列と相同な配列がデータベース上で検索し続けられた結果、繰り返し配列間のスペーサー領域にウイルスやプラスミドなど外来遺伝子と相同な配列が含まれているものが見つかり、その機能解明のヒントが得られた(3)。CRISPRが細胞に侵入してきた外来遺伝子から身を守る生体防御機能と関係しているのではないかと想像され、CRISPRは原核生物型のRNAiシステムであることが提唱された(4)。まもなく、乳酸菌とそれに感染するファージを使って、CRISPRにファージDNA断片が挿入されると、その宿主菌はファージからの感染を免れるということが実験的に証明された(5)。 化膿性レンサ球菌のCRISPR-Cas9で、その作用機構の解明を目指していた研究者が、スペーサー領域から転写されてできるクリスパーRNA(crRNA)がDNAを切断するヌクレアーゼ活性を有するCas9と複合体を形成し、crRNAと同じDNA配列の部位へCas9を誘導して、そこで二本鎖DNAを切断する分子機構を解明した(6)。その結果、CRISPRのスペーサー部分に任意の標的DNA配列を挿入することによって、その標的配列を特異的に切断できるCRISPR-Cas9の機能を利用すれば有用なゲノム編集技術に繋がると提唱された(6)。この技術開発が2020年のノーベル化学賞の授賞対象となった。提唱から数ヶ月後には、CRISPR-Cas9を利用したヒト細胞でのゲノム編集の成功例が報告された(7,8)。 CRISPR-Cas9は、標的配列を特異的に切断するゲノム編集ばかりではなく、特定のタンパク質をゲノム上の標的配列に誘導できる機能を種々工夫することによって、多くの有用な分子生物学ツールが開発されている。またバクテリア、アーキアに広く存在するCRISPR-Cas系は顕著に多様性に富んでおり、性質の異なるものが次々発見されており、新たなCRISPR-Casは新たな応用技術を生み出している。CRISPRの分子生物学は、基礎と応用の両面から多くのポテンシャルを含む研究領域であるといえる(9,10)【文献】 Ishino Y, et al., Nucleotide sequence of the iap gene, responsible for alkaline phosphatase isozyme conversion in Escherichia coli, and identification of the gene product. J Bacteriol, 169, 5429–5433 (1987). Jansen R, et al., Identification of genes that are associated with DNA repeats in prokaryotes. Mol Microbiol, 43, 1565–1575 (2002). Mojica FJM. et al., Intervening sequences of regularly spaced prokaryotic repeats derive from foreign genetic elements. J Mol Evol, 60, 174–182 (2005). Makarova KS, et al., A putative RNA-interference-based immune system in prokaryotes: computational analysis of the predicted enzymatic machinery, functional analogies with eukaryotic RNAi, and hypothetical mechanisms of action. Biol Direct, 1, 7 (2006). Barrangou R, et al., CRISPR provides acquired resistance against viruses in prokaryotes. Science, 315, 1709–1712 (2007). Jinek M, et al., A programmable dual-RNA-guided DNA endonuclease in adaptive bacterial immunity. Science, 337, 816–821 (2012). Cong L, et al., Multiplex genome engineering using CRISPR/Cas systems. Science, 339, 819–823 (2013). Mali P, et al., RNA-guided human genome engineering via Cas9. Science 339, 823–826 (2013). Ishino Y, et al., History of CRISPR-Cas from encounter with a mysterious repeated sequence to genome editing technology. J Bacteriol, 200. 10.1128/jb.00580-17 (2018). 石野良純 CRISPR/Cas9を利用したゲノム編集の原理とアレルギー疾患への応用 アレルギー, 72, 343–352 (2023). 〇石野良純先生 略歴学歴1976年 3月 大阪府立茨木高等学校卒業1981年 3月 大阪大学薬学部製薬化学科卒業1983年 3月 大阪大学大学院薬学研究科薬品化学専攻博士前期課程修了1986年 9月 薬学博士(北海道大学)職歴1983年 5月 宝酒造株式会社中央研究所 研究員1983年 6月 大阪大学微生物病研究所 研究生1987年 8月 Yale University 博士研究員 ( Post-doctoral fellow)1989年 9月 宝酒造株式会社バイオプロダクツ開発センター Grリーダー1990年 4月 宝酒造株式会社バイオ研究所 次席研究員1992年 4月 宝酒造株式会社バイオ研究所 主任研究員1996年 4月 生物分子工学研究所 主任研究員2000年 4月 生物分子工学研究所 主席研究員2002年 6月 九州大学 大学院農学研究院 教授2023年 3月 九州大学 定年退職2023年 4月〜 九州大学 名誉教授2023年 4月〜 立命館大学 客員教授(生命科学部)2023年 4月〜 長浜バイオ大学 客員教授(バイオサイエンス学科)2023年 10月〜 東京工業大学 特定教授(科学技術創成研究院)2024年 4月〜 長浜バイオ大学 ゲノム編集研究所 研究員2024年 4月〜 大阪大学 招聘教授 (生物工学国際交流センター)(兼務)2000年 Visiting Professor, University of Paris 112004-2009 年 Affiliated faculty, Institute for Universal Biology, NASA Astrobiology Institute, University of Illinois at Urbana-Champaign2015-2016 年 Invited Scientist, Invited Scientist, Institute Pasteur, Paris,受賞歴2017年 6月 公益財団法人遠州頌徳会 遺伝学大賞奨励賞2017年 11月 第1回 日本医療研究開発大賞 文部科学大臣賞2018年 3月 日本農芸化学会賞2022年 9月 日本遺伝学会賞(木原賞)2023年 9月 ISE Award of Lifetime Achievement(International Society for Extremophiles)その他2022年 2月〜 米国微生物学アカデミー会員選出 (American Academy of Microbiology Fellow)2024年 4月〜 極限環境生物学会 会長2024年 7月〜 日本アーキア研究会 代表 日経新聞記事ノーベル賞「ゲノム編集」 日本人研究者が貢献2020 年10月8日 日経 朝刊ゲノム編集技術「クリスパー・キャス9」の基礎となった遺伝子配列「クリスパー」を見つけた九州大の石野良純教授は7日夜に記者会見し「うれしく思っているし、興奮している。2人に心からお祝い申し上げたい」と喜んだ。石野教授はクリスパーを発見し、1987年に論文を発表した。「最初に発見したときは機能が何も分からなかった」とし「あまりにもきれいな繰り返し配列で間違いなく何かあるなと思った」と振り返った。受賞した2人には「こういう技術を生み出してくださってありがたい」と感謝。「クリスパーが人類に役立つ技術開発につながり評価されたのは非常にうれしい」と述べた。石野教授は「クリスパーを自分で解明できなかったのは残念ではあるが、その後に選んだ研究テーマも私自身で決めてやってきたことなので満足している。なぜこっち(クリスパー)をやらなかったのかという後悔はない」とも語った。受賞するジェニファー・ダウドナ教授とは一緒に食事をしたこともあるという。「非常に楽しい方。(私を)クリスパー発見者ということでリスペクトしてくれているように感じた」と話した。