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札幌本部

2023.08.25

北大の牛たちもグッタリ 猛暑の牧場から

8月中旬、強い日差しが照りつける北大牧場(札幌市内北区、大学構内)で、畜産科学科畜牧体系学研究室の三谷朋弘准教授にお話をうかがいました。牛と暑さに関わる様々な疑問にお答えいただきました。

【牧場から見える今年の暑さについて語ってくださる三谷先生。バックには放牧牛とポプラ並木が見える=北大牧場(以下の写真も撮影場所はすべて北大牧場)】

―昼間の暑さが厳しい時間に、放牧しているのはなぜなのでしょうか?

 「北大農場では昼夜放牧の実験を行っており、条件を合わせるため、決まった時間(10時から14時)には暑くても放牧しなければなりません。実験では、牛舎で牛に与える飼料の量を変えた場合、屋外の生草を食べる量や牧草の生産量にどのような変化があるのかを調べています」

【牛舎近くの水場に集まる牛たち。猛暑の中、水桶に飲み水を求める】

 「牧場には日影となるものを設置していません。というのも、日陰を作ると牛が日陰に集まって、その場所の草ばかり食べてしまい、実験に影響を及ぼすためです」

―暑さはホルスタインの健康に影響を及ぼしますか?

 「実は、牛も人間と同じで、夏バテで食欲が減ってしまうようです。草を食べられなくなると免疫が落ちて、病気にかかりやすくなったり、乳量や乳成分にも影響を及ぼしたりすることもあります。特にホルスタインは、乳を作ることを何よりも優先してしまうの乳用品種であるため、食べる量が減っても、自分の体をすり減らしてまで牛乳に栄養を回すため、そうして生産された乳では栄養素の割合などの変化が見られるようです」

【昼間の草を食べていない間は、寝転んで反芻していることが多いそう】

―そもそもホルスタインにとって今年の北海道の暑さは危険なのでしょうか?

 「ホルスタインという品種の生まれはオランダとドイツの境界辺りであり、暑さには元来強くありません。28℃くらいが限界と言われています」

 取材時の気温は摂氏30℃となっており、牛たちには暑さによる強いストレスがかかっていると考えられます。

 「牛たちは日射や気温など、外からの要因に加えて、150Lほどの容量を持つ大きな胃で食べたものを反芻しており、その時に内からの発酵熱が生じます」

 それゆえ、体感温度はさらに高くなってしまうのだそうです。

【口を開け、速く呼吸する「パンティング」現象を見せる牛。唾液の水分蒸発による放熱反応だ。犬にはよく見られるが、牛は通常あまりしないという】

―今後、酪農は暑さに対応するためどう変わっていくと考えられますか?

 「夏場の乗り越え方は酪農場において大きな課題になっています。例えば牧草の成長については、今年は暑さに加えて、少雨であるため伸びが悪くなっています。現在、北海道で一般的に多く使われている品種の牧草は、本来は暑さに強くないため、将来的には牧草の種類が変わってくる可能性があるでしょう」と三谷先生は言います。

 また、興味深いことに、牛たちが暑さに順応してきている現状もあるようです。暑さに弱い個体は病気などによって淘汰され、結果として暑さに比較的強い個体が子孫を残していくためです。実際に本州の牛と北海道の牛で比較をすると、本州の牛の方がより暑さに強いということが分かってきています。

【牧草を触りながら説明してくださった三谷先生の手。日照り続きによって、牧草が夏枯れを起こしてしまう場合もあるという】

※畜産科学科畜牧体系学研究室および北海道北方生物圏フィールド科学センターの許可を得て撮影させていただきました。

(さっぽろ農学校リポーター・佐藤春佳 =4年、写真も)